ピジョンブラッド ― 2010/03/25
朝、ダイニングルームのカーテンを開けると、枯山水の白い敷石の池の中、半分枯山水の辺のツツジの木立に隠れて、何時も家の周りや二階のベランダをうろつく近くに縄張りを持つ雉色の雄の野良猫、雉色の立派な尻尾をまっすぐ伸ばし、お尻をこちらに向けて、はて、こんな所にうずくまったことは無いのに、何気なく周りを見回すと、枯山水の辺の黒い土の小径に綿毛が散乱、その中に、野鳩の羽が混じっていて、これはと、そっとサッシを開けて覗くと、件の野良猫振り返り、見たなー、口の周りに油なら鳩の羽を付けて、その目付き、相手を人間と思っていない、獲物を横取りする同類を威嚇する目付き、いつもなら、目を合わせた途端に逃げ出すのに、じっと見詰め合う一匹と独り、野良猫にも生活がかかっている、しかし、流石ににらみ合いとなると、向こうは領海侵犯、それでもいつもと違って1m程の木立の中へ移動しただけ、さて、野良猫にとっては折角の獲物、しかし、家人が起きてくるとこれはもう一波乱ありそう、それで、台所に行って、不透明なビニールの下げ袋と、手袋代わりに透明なビニール袋を用意して、庭へ下りると、流石に野良猫、門の外へと後ろ髪を惹かれるような走りで去って、それでも、門の横の塀の上でもう一度恨みがましく一睨み、野鳩はと見ると背中から食べられた後が、ビニール袋の手袋で持ち上げると、寒い朝、もう冷たく、用意した不透明なビニール袋に入れて、ふと見ると、枯山水の白い敷石に一点赤い血の跡、なるほど、これがルビーの色を表現するピジョンブラッド、人間の血はどちらかと言うと暗く沈んで、しかも直ぐに少し茶色を帯びてくる、しかし、鳩の血、白い石の上で実に美しい輝くような赤で、宝石の色を表現するのに使われるはずと、初めてみる鳩の血液に生き物の死も忘れて、と、頭上の立ち木からカラスの鳴声が、この辺りカラスは居るものの、こんな近くに居ることは無い、しかもしつこく鳴いて、カラス、大方猫の後に残りの鳩を頂こうと、そこへ、何だか多彩な鳴声でお互い話をする巨大な生き物が割り込んできたので気が気ではない、こんな平和な里山の庭にも食物連鎖が存在して、食べもしない人間が割り込んで、野良猫もカラスも何と理不尽なと思っているだろうと思いつつも、今では原始を忘れ現代人となった家人を慮って、庭に飛び散った羽も一つづつ拾い上げて、始末は終わり、やがてカラスも諦めて去り、ダイニングルームに戻ってサッシを閉めて、鳩はつがいで生活する、春になり、子育てはもう直ぐ、一匹になった鳩はどうしているだろうと、これは人間的考え、こんな里山でも人間の知らない間に自然の淘汰は行われており、それも自然と受け止めて動物を含めた里山を取り巻く自然は今日も何事も無かったように流れてゆく、と、件の鳩の持ち主の野良猫、先ほど食事中の枯山水に戻ってきて盛んに匂いを嗅いで、ふと後ろを振り返り、目が合うと、お前が食ったなと言いたげに一睨みして木立の中へ、家人がダイニングに降りてきて、いつもの現代人の朝が始まるのでした。
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